錚吾労働法

一五八回 TPPと労働問題④
 TPP交渉参加問題を途中で挟んだから、鋭い学生諸君は国際労働者派遣の可能性はあるのかないのかと考えているに違いない。だろ?TPPに関連して、派遣業者の中にはチャンス到来とばかりに小躍りしているところもあるでしょうね。外国人労働者の技能研修・実習制度は、実質的に外国人労働者の日本派遣制度といっても差し支えないな。この制度は、訒小平さんが200万人の中国人労働者を日本に送り込みたいと言い出したので、入れたくない日本政府が、妥協案として、また苦肉の策として考え出したのが、外国人労働者の技能研修・実習制度だったんですな。このようなやり方は、国際通商の観点からすると、変則的で実績面からして特定国偏重なので好ましくなく、説明できないものだと言わねばならんのだよ。
 センシティブな問題が山積みの日本やその他の諸国との間で交渉するのですから、マスコミが騒々しくもう遅いんじゃないかと言う問題も確かに存在するわけ。しかし、通商論レベルで考えれば、「自由主義」と「保護主義」、「関税撤廃」と「特恵関税」、「自由競争」と「公正競争」という具合に国際通商の論点が変わってきたという変遷を直視することが、大切なんだよ。GATTWTOのラウンド(何のことか分からない学生は、調べてちょうだい)の変遷は、この変遷なんだ。競争と環境や労働は、国際通商の領域では、一大争点なんだよ。環境破壊をものともせずに作ったものをそのまま国際流通経路に乗せることまで通商の自由と言われたら、困るじゃないか。環境破壊しながら産品の輸出に熱をあげていたかっての日本の姿を、思い出して欲しいな。日本は、国際通商の世界の問題児だったわけ。
 労働が国際通商の論点になるわけは、どういうことかな。労働基本権ね、そんなこと言うだけで睨まれちゃう国、あるんじゃないのか。労働基準なんて知らんプリの国って、あるんじゃないのか。「塵肺になったらお金くれるんなら塵肺になりたい」なんて馬鹿げたことをいう政治家がいるような国は、まともな通商国とは言えんのじゃないのか。「女は男の持ち物だから、家からでちゃいかん」などと言う国でも、オイルが出てれば立派な通商国なのかい。「賃金を支払わないですむ偉大な発明」だと説明されていた労改労働(事実上の囚人労働)で生産した産品を輸出する国とその産品を○○円ショップで売っている国は、立派な通商国なんだろうか。児童労働が当たり前の国とは、通商上のみならず、どう付き合っていくべきか。
 労働が論点になるのは、上に述べたようなことが存在しているときに自由な通商のパートナーとして認めるべきか、それとも通商を止めはしないが制約を課すべきかという筋道においてである。これに対して、企業が直接投資したのに技術者などの労働者の入国を自国の雇用を守るためなどと言って、認めないのは、非関税障壁の問題だと言ってもよいのではなかろうかな。
 ケネディーからオバマまでのアメリカの通商政策の変遷を下敷きにしてTPP問題を、考えないとダメだぞ。単純化に過ぎると言われるかもしれないがだね、敢えて言うと、アメリカの通商政策の念頭にあったのは、ドイツと日本だった。子ブッシュから徐々に、そしてオバマからはハッキリと、それが中国に変わったんだよ。中国漁船衝突事件に対するあの処理は、アメリカをして日本を叱咤して米日基軸へと連れ戻す決意をせしめたのではないか。TPP交渉参加へのアメリカからの圧力は、強力だったと思うよ。TPP協定において労働問題がどのように書かれるにせよ、その交渉過程で論じられる事柄によってそれが運用されていくだろうな。中国の対日政策についても、注意深く観察すべきでしょう。