錚吾労働法

一六一回 労働者派遣問題⑭
 民主党と連合の皆さんは、派遣対象となる26業種(施行令4条)を圧縮することと、日雇派遣の禁止をおこなうことを主張してきましたよね。これは、派遣切りによって多くの労働者を路頭に迷わせた苦い経験に基づく主張であったので、是非そうして欲しいなと思っていたんだ。思っていたけれども、断念せざるをえなくなるんじゃないかと危惧もしていたんだよ。自民党の皆さんも民主党の皆さんも、議会じゃあ余り考えもしないで製造業への派遣を認めてしまったので、派遣切りなんていう社会問題が発生するなんて考えもしなかったんだろうね。いやあれはリーマンショックのせいだから、100年に一度のことだからと言って、天災みたいに言ってただろ。天災みたいなもんだから、派遣切りは一過性の現象だよと言うひともいたんだよ。
 しかしだね、やっぱり怪しいことをしてはいかんというのが教訓だったんじゃないのかい。リストラで欠けた部分を派遣で賄うなんてのは、何分にも筋のよくない話さ。某社の社長が、「先生、正社員を守れたのは派遣労働者のおかげだったんだ」と言ってたよ。これは、さもありなんという話だよ。派遣労働の雇用調整弁としての機能が、かくも劇的かつ刺激的に表れるなんて誰も考えていなかったんだろうね。派遣切りされた労働者の中には、寒空の下に放り出されてしまって健康を害したり、自殺したり、気がおかしくなったりした者もいたんだよ。生活保護申請して、一息ついたひともいたし、聞き入れてもらえなかった人もいた。ハローワークの自転車置き場、雪がつもった状態だったんだが、そこで段ボールにくるまって寝ているひともいた。ビックリして、カレーライス作って食べていただいたこともあったんだよ。
 経済が激変するときには、社会的に恵まれていない人達が真っ先に酷い目にあってしまう。そういう人達を少なくするのが、政治ってもんじゃないのかね。だったら、民主党の先生たちが製造業への派遣の禁止、日雇派遣の禁止を主張してるのに、派遣法の改正が出来ないんだろうね。経団連や商工会は、派遣と言う雇用ツールの利便性を身をもって体験してしまったんだから、そう易々と賛成するわけはないよ。民主党にしたって、改正案を無理押しすれば、懸案の社会保障と税制の一体改革もできなくなって、解散に追い込まれる可能性があるから、引っ込めるんじゃないかと観測されていたよな。その意味で、マスコミの皆さんが仰っていた通りになったんだよ。そんなんじゃ困るからさあ、派遣労働者を派遣先が雇用するための方策を考えようじゃないかてなことに話の重点が移ってきてるんだ。そうすると誰でもが考えるような話になっちゃうんじゃないのかな。派遣労働者本人の希望、派遣先での労働期間、そこでの非違行為の有無、正社員との協調性、仕事の熟練度、仕事の精確さ、労働実績(無断欠勤の有無、仕事量など)などの諸事情を個々の派遣労働者ごとに判断しつつ雇用するかどうかを決定するというような話さ。
 その程度なら誰でも考えることのできることだからいい。問題は、法律で雇用基準を策定して、それを充足する派遣労働者について派遣先に雇用を義務付けるなんて話になることには、断固反対だよ。最近の労働立法構想は、定年延長の義務付けとか、派遣労働者の雇用義務付けとかの話になちゃうんだな。これでは経済の自律性、労働関係の自由な創造性は、損なわれてしまうことになるんじゃないか。自律性や創造性を損なわずに、派遣労働者問題の過度に深刻な部分を除去することを考えなくてはならないんだよ。ジョブシェアリングの掛け声は、一体どこに行ってしまったのかな。政労使で、協議しながら解決しないとダメだ。過剰な法律による強制は、この国から職場を蒸発させることになるんだよ。法律じゃなく、話し合いで決めなくては駄目だ。「干拓地モデル」(どういうものか調べてちょうだい)に倣えなどと言ってるんじゃないよ。ジョブシェアリングはさあ、賃金などの人件費総額の一部を労政使でもって造成して雇用の拡大に消費するという構想なのさ。3.11以降のわが国の労働市場は、これまで以上に狭くなってしまったんだ。この構想は助け合いましょう構想だからな。大卒者10万人の就職が決まらなかった。言いたくはないがこれも、派遣法改正を妨げた事情の一つなのさ。奇妙きてれつな派遣法制定と派遣業種の拡大の大失敗を、ああせいこうせいというお節介法律をうんとこさ作るんでしょ。見透しの宜しくない政策立法は、止してくれないかな。言うまでもないが、学生はボーとしてちゃあいけない。勉強も何にもしないで、助けてもらえるわけないよな。