錚吾労働法

一六二回 ユーロ危機の教訓と労働関係
 ハッキリ言っときますが、わたしゃ、鬼面ひとを驚かす類の話はしたくないわさ。しかし、もう黙っておれんぞ。「国債発行残高が1000兆円越えても日本は大丈夫。国民の預貯金総額のほうが多いから」なんてたわごとを財務省の役人が言ってたのは、もう昨年の初めころだった。覚えているかい。この発言、裏を返すとだね「国民の預貯金全額を国債購入に充てられるから、国民全体が国の借金の債務保証することになるんだ」という話なのさ。確かに国債は国民の借金さ。だから、この役人の言ってることが全くの間違いだと決めつけることは出来ない。この役人は、しかし、落第だ。言ってはいけないことを言ってるからだ。そんなことは、わざわざ言わなくたって誰でも知ってることで、敢えて言わないからだよ。言うんだったら、徹頭徹尾言いなさい。「国民の皆様、あなたがたの大切な財産は、将来、無くなる可能性があります」ってね。警告するつもりなら、ハッキリと警告しなさいよ。
 25歳までの若者の失業率は、最高で40%になるかもしれない。預貯金のペイオフと並んで、公務員の分限免職・給与の20%カット・夏季年末一時金の全額カット・公務員宿舎の売却、金融機関へのIMF資金の投入と役員の首の挿げ替え、補助金の全廃、国債・株式市場の一時的閉鎖と為替相場の一時的円安固定化、企業への貸付金の返済強制と金利のアップ、住宅ローンその他ローンの金利のアップ、年金の減額などなど。何を言いたいのかって。日本の信用不安が具現してしまえば、このような手段を早急に講じる必要がある、と言ってるんだよ。ユーロの本を書いたときに、あとがきで日本は問題だと指摘しておいたんだよ。それから今日までの間に、国債発行残高は倍増してしまったんだね。英語塾で勉強したら最高20万円までバックなんて馬鹿しか考え付かない補助金を、今でも出しているのかい。これに類する補助金は、実は、ゴロゴロしてるんだな。補助金出す政府は良い政府ってわけだよ。こんな具合になってくると、良い政府かどうか疑問だぞ。
 嫌味なことを言う奴だなと思うかい。でもだよ、上に書いたようなことが実際に起これば、寅さんじゃないけど「労働者諸君」は真っ青だよ。さすがのタコ社長だって、工場たたんで夜逃げしなくちゃならない。全国いたるところで、こんなことが起こったら大変じゃないか。公務員の皆さんも、お先真っ暗になっちゃうだろ。自慢の坊っちゃんやお譲ちゃんが大学行きたいと言っても、出すお金無くなっちゃうんだよ。こんなふうになるのは真っ平ごめんだから、言ってるの。お金無くなってから、団体交渉してもいいですよ、労働協約締結してもいいですよと言われても、ない袖振るわけにゃあいかないだろ。官僚の皆さんは、自分達が政治家をコントロールしてるつもりでいたんだが、市場によって逆コントロールされる事態になっていることに気づかないとね。実を言うと、話してみれば、ちゃんと気づいているんだけどね。こんな酷い状態は、長年の積み重ねだから現在の公務員じゃどうしようもないわね。国会には、打開してくれそうな人物は見当たらないんじゃないかな。
 実をいうと、こんなことはアジア金融危機のときに、あちこちで起こっていたんだよ。お隣の韓国だってそうだったんだ。株価の下落、労働者の解雇、就職難、企業倒産。その痛手は、いまだに深刻に残っているということだよ。春になったら李先生を訪ねて、詳しいことを勉強してくるよ。台湾も大変だったんだよ、能先生に教えてもらうつもりだよ。上に書いたのは最悪のシナリオなんだよ、どうしたらこのようにならないで済むのかな。政府も、公務員も、民間の労使もこぞって勉強して、知恵を出して、不幸にならないような大胆な政策を実行しましょう。政府の財政プランを観察する限り、成程と唸るような知恵を感じない。学生だって、知恵を出してくれなきゃな。期待してるよ。