錚吾労働法

一六六回 INAXメンテナンス事件④
 東京地裁は、会社からの処分取消の訴えを棄却した(東京地判平成21・4・22)。ここでの争点は、CEの皆さん方の労組法の労働者性と不当労働行為の成否であるが、労組法の労働者性について判決は、労組法の労働者を次のように捉えたんだよ。
 「労働組合運動主体となる地位にある者であり、単に雇用契約によって使用される者に限定されず、他人(使用者)との間において使用従属の関係に立ち、その指揮監督のもとに労務に服し、労働の対価としての報酬を受け、これによって生活する者」だとね。
 CEの皆さん方が、これに当たるかどうかについては、次の判断基準によるとしたわけさ。
・業務の依頼に対する諾否の自由の存否。
・時間的・場所的拘束の有無。
・業務の遂行についての具体的指揮監督の有無。
・報酬の業務対価性。
 判決は、CEの皆さん方の労働については、これらの基準が満たされているので労組法の労働者であるとし、そして、会社に団交しなさいとした中労委の命令を維持すべきであると考えたんだな。
 会社が控訴を受け、東京高裁は、東京地裁の判決(原判決と言うんだよ)を取消しました(東京高判平成21・9・16)。ここでも、労組法上の労働者の意義と不当労働行為の成否が論点だったんだよ。東京高裁は、労働者性について次のように言いました。
 「労働者は、使用者との賃金等を含む労働条件等の交渉を団体行動によって対等に行わせるのが適切な者、すなわち他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務いかに服し、その労働の対価としての報酬を受ける者」だといってるよ。
 そして、CEの方々がこの意味の労働者であるかどうかの判断基準は、次のようなんだ。
・業務の依頼に対する諾否の自由の存否。
・時間的・場所的な拘束の有無。
・業務遂行についての具体的資金監督の有無。
・報酬の業務対価性の有無。
 高裁判決はこれらの有無・程度を総合的に判断すべきであるとしたが、結論として次のように言っている。
 「CEは、業務の依頼に対して諾否の自由を有しており、業務の遂行に当たり、時間的場所的拘束を受けず、業務遂行について控訴人から具体的な指揮監督を受けることはなく、報酬は行った業務の内容に応じた出来高として支払われているというべきであり、その基本的正確は控訴人の業務受託社でありいわゆる外注先とみるのが実態に合致して相当というべきである」。
 このようなわけで、高裁は、本件の団交拒否を不当労働行為ではないから、救済命令は取り消されるべきであり、これを相当とした原判決を取り消すべきものとしたんだね。
 どうかね、地裁と高裁の違いが分かるかな。言ってることは、殆ど同じだろ。しかし、労組法上の労働者たることを認定するための同一の基準をもってした事実の評価は、正反対になってるんだよ。INAXメンテナンス事件は、部外者たるわたくしめの観察では、結論がどっちに行くにせよすっきりとは腹におさまらない問題をはらんだ事件であるから、観察者をうならせてくれないと困るよ。