錚吾労働法

一六九回 ビクターサービスエンジニアリング(VSE )事件
 本件(東京地判平成21・8・6)は、INAXメンテナンス事件によく似た先行事例であるから、解説しておこう。詳しくは、ちゃんと判例集を読んでちょうだいね。音響機器メーカーのビクター製品の修理やメンテナンス業務を事業として行っているVSEは、その業務を個人営業の代行店に委託していた。その代行店が労組の加入し、労組は、代行店の待遇改善のための団交をVSEに申し入れた。VSEがこれを拒否したので、労組は団交拒否だと言って、大阪府労委に救済を申し立てたんだね。府労委は、労組の主張を認めて団交しなさいよと言ったのだが、その理屈を見ると、INAXメンテナンス事件と寸分違わない労組法上の労働者の意義とそれに該当するかどうかの基準を呈示して、VSEの団交拒否を不当労働行為としたんだよ。再審査した中労委もまた、INAXメンテナンス事件で述べたことと寸分違わない理屈と結論であって、再審査申立をば棄却したんだ。東京地裁は、「原告の再審査の申立てを棄却した本件命令は違法であるというべきである」とした。高裁もこの結論を支持したのだった(東京高判平成22・8・26)。
 この2ツの判決では、INAXメンテナンス事件でイエスとされたことはノーとされていた。しかし、労組法上の労働者性に関する捉え方に相違があったわけではなかった。その上、VSE事件では、会社側が労基法上の労働者ではないから云々というINAXメンテナンスが行った主張をしなかっただけでなく、終始具体性のある主張をしたのである。この相違は大きなものだから、二つの事件を単に並列的に比較する意味はないんじゃないかと思うよ。つまり、ここで言いたいことはだね、この種の判断がなされる可能性は、今後もあるということなのさ。最高裁も、最高裁自身が依ったところの判断基準による事実の評価において、VSE判決と同じことをする可能性はあるのではないかと思うのである。
 こんなわけであるので、この種事案は今後も発生するであろうし、特に裁判所においては裁判官たちの苦闘が展開されることとなるのではないかと思うよ。この教室では、判例をやや詳しく採りあげる初めての試みをしてみたが、どうだい面白いと思わないかい。大学の法学部の新聞広告に「リーガルマインド」の養成なんて書いてあるだろ。「ああでもない、こうでもない、あの筈だ、この筈だ」てな具合に考えなきゃ、「リーガルマインド」なんて言ったって、身に着くもんじゃないのさ。分かりましたか。