錚吾労働法

一七七回 滋賀県事件(平成23年12月15日最高裁判決)①
 師走月の15日に、労働委員会に関わる重要な最高裁判決があった。滋賀県公金支出差止請求事件(以下滋賀県事件)である。本件は、滋賀県の住民(弁護士)が労働委員会選挙管理委員会の非常勤の委員に対する報酬が高額に過ぎているとして、県を被告として委員らに対する報酬の差止請求した事案である。月に1日ないし2日の出勤に過ぎない法定で必置の選挙管理委員会等の行政委員会の非常勤の委員に月額報酬を支払っているのは違法であるから、県の委員らに対する支払いを差止するよう請求するというのである。県の行政委員会の非常勤職員の処遇をどうすべきかは、現行法上はどうなっているかという問題としても、また立法政策としても検討すべき重要な問題である。その意味においては、滋賀県住民が提起した事件は、重要な意義を有するといってよい。
 現行法たる地方自治法は、行政委員会の非常勤職員に対する報酬に支払いについては、「地方公共団体は、・・報酬を支給しなければならない」(地方自治法203条の2①)とし、「前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない」(同法203条の2②)とし、「第1項の職員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる」(同法203条の2③)とするほか「報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない」(同法203条の2④)としているところである。
 滋賀県事件の原告は、地方自治法は「日額」で支払うことを原則としていること、「月額」で支払うほどの委員会委員の勤務実態ではないこと、「月額」での支払いは条例によらねばならないが、「月額」に相応しい勤務実態が存在する「場合に限られる」べきことを主張した。これらの主張は、原告の訴訟提起時に新聞等のマスコミによって報道されたので、全国的な注目を集めるにいたった。
 一審判決(大津地判平成21・1・22)は、原告の主張を容れ、「勤務実態に照らせば」同法203条の2②に違反するとした。この判断は、勤務実態に照らせば日額を原則とする法に違反するという意味と、勤務実態からして条例で特別に月額払いすべき場合えあには当たらないという意味を明らかにしたものであると、理解された。ここでの判断の起訴は、「勤務実態」そのものであった。この場合の「勤務実態」は委員会委員の「出勤日数実体」であって、それ以上のものではなかった。二審判決(大阪高判平成22・4・27)も、同様の判断であった。
 大津地裁判決以降、特別職の非常勤委員に対する処遇の在り方について各県での見直し作業が進捗し、月額制を日額制や、月額・日額併用制に改める県が相次いだ。また、滋賀県事件に刺激されてか、滋賀県と同様の訴訟が提起されたり、過去5年分の報酬の返還を求める訴訟も提起されたりした(同法236条①参照)。平成24年には、これら訴訟にたいする判決が続々と出される運びとなっているので、これらに先駆けて滋賀県事件に対する最高裁判決が出されたことには、極めて大きな意義があると言うべきである。しかし、その検討に入る前に県議会、国会(立法府)の怠慢について一言しておかなければならないし、勤務実績主義の愚かさについても指摘しておきたい。
 それは、地方公共団体、県、市町村に設置される委員会(同法180条の5)が執行することとされていた国の機関委任事務自治事務化に関わってのことである。行政改革の柱の一つとして、機関委任事務自治事務化がなされた以上は、原則は法律で特例は条例でというのでは困るのである。自治事務化を貫徹する以上は、各種委員会の委員の報酬の形態もまた条例によるべきなのである。同法203条の2②の規定は、自治事務化に伴って改正されていなければならなかった。だから、県議会議員たる者が法律の日額原則を振りかざすのは、いささか不勉強のそしりを免れない。無給ボランティア、時間額、日額、月額、年額など報酬の定め方は、本来、いろいろとある。議会は、それらをすべて頭に入れ、委員会委員の意見または委員会の意見を聞きながら、報酬条例を改正するなどしなければならなかった。労働組合法なども国会で改正せねばならなかったのに、何もしていない。まことに困ったことである。県議会も国会も、しっかりしてくれないとこまるのである。
 滋賀県事件の下級審は、勤務実績という。ここでの勤務実績は勤務日数のことのようである。勤務実績の判定にとっては、勤務日数も重要な要素である。しかし、それで総てではない。それは、判定要素の一部に過ぎない、少なくとも、金銭的な報酬でもって各種委員会の委員に報いようというときには、考慮すべき要素は、一応、総てとは言わないが、考慮して、その額を決定すべきである。議会は、その任務を誠実に果たさねばならない。その際、日額、月額には一長一短があることを知らなければならないだろうし、一部委員の常勤化をも考慮しなければならないのである。