錚吾労働法

一七八回 滋賀県事件(平成23年12月15日最高裁判決)②
 最高裁は、一審の被告敗訴部分を破棄取消したうえ、労働委員会および収用委員会各委員の月額報酬の支払差し止めを求める訴えを却下するなどした。これにより、この種事件は、終息していくものと思われる。最高裁の示した判決理由を概括的に示すと、大要次の通りである。
 「法203条の2第2項ただし書きは、・・日額報酬制以外の報酬制度を定めることのできる場合の実体的な要件」を定めていない。「職務の性質、内容や勤務態様が多種多様である・・非常勤の職員に関し・・どのような報酬制度が・・人材確保の必要性等を含む・・地方公共団体の実情等に適合するか・・は、その財政の規模、状況等との権衡の観点を踏まえ、・・職務の性質、内容、職責や勤務の態様、負担等の諸藩の事情の綜合考慮による政策的、技術的な見地からの判断を要する」とした。
 日額制、月額制のいずれによるべきかに関しては、「その報酬を原則として勤務日数に応じて日額で支給するとする一方で、」条例を定めることによりそれ以外の方法も採り得ることとし、その方法及び金額を含む内容に関しては、上記のような事柄について最もよく知り得る立場にある・・議会において決定することとして」いるのであるとして、その決定については議会の裁量権に属するとした。
 議会の裁量権の行使は、しかし、自由裁量ではない。「月額報酬制その他の日額報酬制以外の報酬制度を採る条例の規定が法203条の2第項に違反し違法、無効となるか否かについては、・・議会の裁量権の性質に鑑みると、・・職務の性質、内容、職責や勤務の態様、負担等の諸藩の事情を総合考慮して、当該規定の内容が同項の趣旨に照らした合理性の観点から・・裁量権の範囲を超えまたはこれを濫用するものであるか否かによって判断すべきもの」であるとした。
 このような論旨を展開して、最高裁は、「登庁日以外にも書類や資料の検討、準備、事務局との打合せ等のために相応の実質的な勤務が必要となるものといえ、・・その業務の専門性の鑑み、その業務に必要な専門知識の習得、情報収集等に努めることも必要となることを併せ考慮すれば、・・形式的な盗聴日数のみをもって、そのきんむの実質が評価し尽くされるものとはいえ」ないとした。
 以上のごとき論旨を展開して、最高裁は、月額報酬制を違法とした大津地裁判決を破棄取消した。その結果、原告は、最高裁にいたって逆転敗訴することとなった。この種事案に関する訴訟では、下級審判断が分かれていた。本件下級審と仙台市事件一審では、月額報酬制を違法であるとしたが、その他事件(12件)では適法であるとされている。その他、来年度に判決予定されている事件が6件ある。3月までには出そろうはずである。岐阜県労働委員会に関わる岐阜県事件では、委員が不当利得しているから返金させろと原告は主張しているようである。ようであると言うのは、公益委員として原告(オンブズマンらしい)に質問したいことは山ほどあるのだが、その機会がないからである。裁判所から訴訟告知文書を受け取っただけである。
 滋賀県事件で最高裁が口頭弁論を開いた時点で、結論はほぼ予測できたことではあった。公金の支出行為に対する住民の監視行為は、なされて当然のことである。しかし、このような訴訟に煩わされるようなことは、実際に出廷するかどうかは別として、公益委員の確保を今まで以上に困難にするであろう。事件の多寡に関わらず、取消訴訟をも含む不当労働行為事件の日常的な研究なくしては公益委員は勤まらないことを理解しなければならない。当事者に弁護士か関与することによって審査手続が民事事件手続化しないように指揮する重要な役割を、公益委員は演じなければならない。労働委員会らしさの追求は、公益委員の業務の特徴である。オンブズマンにものを言われたくないとか、訴訟を起こされたら面倒だとか、どうでもよいような屁理屈でもって委員の報酬問題を行政内部で論ずるようなことも止してもらいたい。毅然としていてほしいのである。