錚吾労働法

一八四回 労働時間と時間外労働③
 変形労働時間と時間外労働に関する基本的な枠組みは、次のようになっている。変形労働時間は、労働時間の原則(労基法32条①②)を一定期間の平均として守られればよしとする労働時間制である。「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働」(労基法33条①)と「公務のために臨時の必要がある場合の時間外労働」(労基法33条③)は別として、労働時間の規制緩和または時間規制の弾力化の結果として変形労働時間制度が導入された。変形労働時間制は、時間外労働を諸種の調整によって、可能な限り時間外割増賃金を支払わなくてもよいとする労働時間制である。独立に別個に解説するのが普通であるが、ここでは、それによらない。以下概観することとするが、次のものがある。
・「1箇月単位の変形労働時間制」(労基法32条の2)
・「フレックス労働時間制」(労基法32条の3) 
・「1箇月超え1年以内の変形労働時間制」(労基法32条の4)
・「日ごとの業務に著しい繫閑の差があるため各日の労働時間の特定が困難なときの変形労働時間制」(労基法32条の5)
 (1)「1箇月単位の変形労働時間制」 
 これは、「1箇月以内の一定の機関を平均し1週間当たりの労働時間が」「40時間」(労基法32条①)「を越えない定めをしたときは・・特定された週において」40時間を越えて、または「特定された日において」8時間を越えて「労働させることができる」というものである。
 この1箇月単位の変形労働時間が可能となる要件は、「過半数組合または過半数代表者との書面による協定」、「就業規則その他これに準ずるもの」により、上記のような定めをし、行政官庁に届け出ることである。「就業規則その他これに準ずるもの」とあるのは、労基法89条・90条の使用者の就業規則作成権限とその作成変更手続のルートでのこの変形労働時間制の実現が可能であることを明らかにする趣旨である。これにより、「過半数組合または過半数代表者」の位置づけは、「書面による協定」の当事者と就業規則の作成変更の場合の「意見を聴か」れる者に分かれた。
 協定による変形労働時間制と使用者の一方的な決定による変形労働時間制とが、書き分けられているが、並列的に書き分けられているのではない。過半数組合または過半数代表者との書面による協定は、変形労働時間制採用の王道である。書面による協定が整わないときに、就業規則またはそれに準ずるもの(就業規則により規程で定めるとされている場合の規程)によることができるとの趣旨であろう。
 いずれの定め方をするかを問わず、「特定の週」、「特定の日」が明示されていなければならない。労働者がどの週に40時間、どの日に8時間
を越えて労働させられるか判然としないような定め(使用者が任意に週と日を決定できるような定め)には、法的効力は認められない。特定の週、特定の日が明確に定めてあっても、それ以外の週、それ以外の日を特定せざるを得ない場合に対処するためには、それを想定した変更の可能性を労働者に具体的に諒知させ得る定めを必要とする。使用者は、それをもって、特定の週と特定の日を変更することとなるだろう。
 (2)フレックス労働時間制の変形労働時間
 終業規則の定めによって労働者にその労働時間の始業時刻と終業時刻の決定を委ねる労働時間制を、「フレックス労働時間制」または「フレックスタイム制」という。フレックス労働時間制で労働する労働者に関しては、使用者は、過半数組合または過半数代表者との書面による協定で法所定の事項(労基法32条の3の1号ないし4号)を定めたときは、「清算期間」(後述する)を平均して週40時間を越えない範囲内において、1週40時間、1日8時間を越えて労組者を労働させることができる。
 フレックス労働時間制は、就業規則で定めねばならない事項である(労基法89条1号)。終業規則においては、フレックス労働時間制は、フレックス労働時間制によらない労働時間制とは「始業時刻」、「終業時刻」においてを明確に区別されなければならない。フレックス労働時間制の対象となる労働者の範囲は、協定において明確にされていないければならない(労基法32条の3の1号)。
清算期間」が、定められなければならない(労基法32条の3の2号)。フレックス労働時間制で変形労働時間を実施すれば、ある週の労働時間が40時間プラスαとなるので、このプラス分を他の週の労働時間を40時間マイナスαとして清算する必要がある。その期間を清算期間というが、それは1箇月以内でなければならない。月内清算をするためである。月内清算を完了しないと、賃金計算が複雑になる。清算機関の定めは、せ期間内の総労働時間の定めと対になっていなければならない(労基法32条の3の3号)。±αで清算できないのであれば、非清算労働時間が正確に把握されねばならない。総労働時間の定めは、そのためのものである。
 「その他厚生労働省令で定める事項」も、協定に定めておかねばならない。省令、つまり労規則12条の3協定に定めおかねばならないと摘示している事柄は、「標準となる1日の労働時間」、「コアタイムの開始と終了の時刻」、「フレックス労働時間帯の制限を設ける場合のその時間帯の開始と終了の時刻」である。これらの内、標準となる1日の労働時間とは、労基法32条2項の労働時間の場合もあれば、そうでない場合もある(1日7時間の職場ならば7時間である)。その他は、フレックス労働時間制の設計の問題である。