錚吾労働法

一八八回 労働時間と時間外労働⑦
 休憩時間
 使用者は、労働時間が6時間を越える場合に少なくとも45分、8時間を越える場合には少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない(労基法34条1項)。
 労働時間が6時間を越えない場合には、使用者は労働者に休憩を与えなくても良い。
 労働時間が6時間を越え8時間を越えない場合には、使用者は労働者に45分の休憩を与えなければならない。
 労働時間が8時間を越える場合には、使用者は労働者に1時間の休憩を与えなければならない。
 この休憩時間は、労基法が定める最低の労働条件である。もっと長い休憩時間の付与は、その分、終業時刻がうしろにずれ込むことになり、拘束時間を長くするので好ましくない。使用者による一方的な休憩時間の延長は、出来ないと解する。休憩時間でないお茶の時間を適宜設定するなどして、実質的に休憩時間延長の実をあげる工夫は、好ましいことである。休憩時間は、労働による肉体的疲労、精神的負荷を軽減して労働効率をあげるためのものである。電解炉の操炉労働者は、炉から離れるときには上司の許可を必要とし、フンケン現象が生ずれば直ちに駆けつけなければならないような状態にあった。この場合、休憩時間は与えられていなかったと判断されている(最3小判昭和54年11月13日)。
 使用者が休憩時間を与えていないと評価されるような事案においては、休暇を与える債務の完全不履行の場合とその不完全履行の場合とが区別されることとなろう。完全不履行の場合には、休憩時間の設定すらされていない場合または設定はされていたが就業規則の周知義務が不履行なために休憩時間なしに働いていた場合と休憩時間を与えたことには全くならない場合とがあろう。休憩時間は労働時間の途中に挟み込まれねばならないから、始業時刻前に休憩時間を置いたとしても休憩時間を与えたことにはならず、また終業時刻後に休憩時間を置いても与えたことにはならない。「労働時間の途中」は、休憩時間の重要な要件である。
 休憩時間中に食事をとったりして過ごすのが一般的であるから、休憩時間を例えば勤務時間2時間後に15分、4時間後に15分、5時間後に15分の休憩を与えるという具合の休憩時間のこま切れ付与は、好ましくない。こま切れの程度によっては、休憩を与えたとは評価されないことになるであろう。
 いわゆる「手待時間」は、仕事の流れの中に生ずる仕事のない時間であり、仕事が回ってくれば労働すべき時間であり、労働者は労働時間から解き放たれていないので休憩時間ではない。これに対して、「手あき時間」は、労働者の自由な時間利用の可能な時間だという実態が具備されていれば、休憩時間と解される余地があろう。ただ、手待時間といい、手あき時間といっても、職場で厳密に区別されていないのであれば、それらが休憩時間に当たるかどうかを判断するに際しては、持ち場を離れることができるかどうか、使用者が指揮命令する可能性があるかどうか、労働者が自由に時間を利用することができるかどうかを基準として判断すべきである。
 休憩時間中の電話対応などのため、休憩時間中に労働者が当番制でその業務を行うことがある。この者への休憩時間の付与は、所定の休憩時間の前後のいずれかになされればよいと解する。
 休憩時間は、一斉に与えられなければならない(労基法34条②本文)。これを、「休憩時間一斉付与の原則」という。上のような例は、かっては労使協定(労基法34条②ただし書き)締結の意思のない労働組合から一斉付与の原則に反するとして攻撃されたが、現在ではほとんど聞かない話になっているようである。コンビニが昼の休憩時間にシャッターを下ろすなどは、今や考えられないことであろう。そうしても違法ではないが、ノンコンビニにはなるだろう。
 休憩時間は、労働者が自由に利用できる時間である(労基法34条③)。労働者は休憩時間を自由に利用する権利を有し、使用者は労働者に休憩時間を自由に利用させる債務を負担する。企業施設外で休憩時間を利用する場合と企業施設内で休憩時間を利用する場合があろう。企業には施設管理権があるので、企業施設内での休憩時間の自由な利用は無制約に承認されるわけではないので、この区別をするのである。また、休憩時間の自由利用は、すべての労働者に保障されているので、その権利の行使の在りようについては他人の権利を尊重することが望まれる。
 休憩時間の自由利用は、時間の自由利用であって、会社施設の自由利用ではない。休憩時間の自由利用は、労働者個人の時間の自由利用であって、一斉休憩といっても団体的な時間の自由利用を言うものではない。団体的に休憩時間を利用したために、その他の労働者が休憩時間の自由利用が出来なかったとしても、使用者は、その者にあらためて休憩時間を与える義務はない。