錚吾労働法

一八六回 労働時間と時間外労働⑤
 (C) 1年単位の変形労働時間制の初回の対象期間を除く対象期間をきちんとしておかないと、労働時間の規律がでたらめなものになってしまう。これを防止するため、労基法32条の4③の大臣の権限行使による規制を実現することとしている。労規則は、このため、「対象期間における労働日数の限度」、「1日および1週間の労働時間の限度」、「対象期間および特定期間における連続労働日数の限度」を定めている(労規則12条の4③以下)。これらに関する労規則の定めは、次のようになっている。
 「対象期間における労働日数の限度」については、「対象期間が3箇月を超える場合は対象期間について1年当たり280日とする」とされている(労規則12条の4③本文)。その「ただし書」は、「対象期間が3箇月を超える場合に、その対象期間の初日の前1年以内の日を含む3箇月を超える期間を対象期間として定める労基法32条の4①の協定があった場合において、1日の労働時間のうち最も長いものが旧協定の定める1日の労働時間のうち最も長いもの若しくは9時間のいずれか長い時間を越え、または1週間の労働時間のうち最も長いものが旧協定の定める1週間の労働時間のうち最も長いもの若しくは48時間のいずれか長い時間を越えるときは、旧規定の定める対象期間について1年当たりの労働日数から1日を減じた日数または280日のいずれか少ない日とする」としている。
1年の労働日は、週休2日制、国民の祝日、年末・年始と盆の休みを考慮すれば280日となるから、労規則の労働日数の限度を1年当たり280日とするというのは、妥当なところだろう。なぜならば、変形労働時間制は、繫期の労働時間と労働日のプラスを閑期の労働時間と労働日のマイナスで清算する制度であるから、280日を限度とするのは敢えて言うまでもないことだからである。年間総労働日数の最低基準は、実際のところ280日に設定して差し支えない。次の式によって計算している。
 対象期間の労働日数の限度=1年当たりの労働日数の限度×対象期間の暦日数÷365
 限度という以上、小数点以下の端数は、当然に切り捨てとなる。旧規定がないときは、対象期間の労働日数の限度は、常に280日である。うるう日は、この式と計算結果に変化をもたらすものではない。
 1日の労働時間の限度は10時間で、1週間のそれは52時間である。週に連続して労働させることができる日数の限度は、6日である(週1回の休日を確保することができる日数という意味でもある)。しかし、対象期間が3箇月を超える場合には、週48時間を越える週の連続は3以下でなければならず、また対象期間をその初日から3箇月ごとに区分した各期間においてその労働時間が週48時間を越える週の初日の数が3以下でなければならない。
 育児をしている労働者、看護をしている労働者、その他配慮を必要とする労働者への使用者の配慮は、なされねばならない。
 (4)1週間単位の非定型的変形労働時間制
 この変形労働時間制は、日々の労働に繫閑の差が生ずるために、予め就業規則またはそれに準ずるものにおいて規則的な労働時間制を規定し難いような事業場において法所定の要件を満たすときには、定型的でない変形労働時間制を採ることができるというものである。この非定形変形労働時間制は、1日の内でも繫閑の各時間帯が不規則的に生じるような事業場を想定しており、対象となる事業場は各日の労働時間を特定することが困難である「小売業」、「旅館」、「料理店」、「飲食店」であって、労働者数が30人に満たない小規模事業場である(労基法32条の5①、労規則12条の5①②)。
 当該事業場に過半数組合があればその組合、過半数組合がないときには過半数代表者との間で締結した書面協定に基づいて、使用者は、労働者を1日10時間まで労働させることができる。使用者は、1週間の各日の労働時間を労働者に書面によって通知しなければならないが、その通知時期は、当該1週間の開始する前までである。使用者は、1週間前の各日の労働時間を定めるにあたっては、労働者の意思を尊重するよう努めるべきものである。決められかつ労働者に書面でもって通知された労働日の変更は、原則的に、できないと解される。この変更は、緊急でやむを得ない場合にのみ、前日までに書面で通知することによって許容されるものである。
 育児、看護をしている労働者への配慮、その他特別な配慮を必要とする労働者への配慮は、当然のことである。