錚吾労働法

一九〇回 労働時間と時間外労働⑨
 時間外労働(超過勤務、超勤、残業)は、法律上定められている労働時間の限度をこえて労働させること、または労働することである。時間外労働として問題となるのは、法外の時間外労働(法外残業)であって、使用者は労働者に割増賃金を支払う義務がある。これに対し法内の時間外労働(法内残業)は、就業規則所定の1日の労働時間が6時間となっている事業場において、2時間の時間外労働を行っても使用者に割増賃金支払い義務が生じないような時間外労働をいう。8時間を越えてはじめて、時間外の割増賃金が問題となるからである。無論、使用者が労基法によらないで、独自に割増賃金を支払うのは自由である。使用者が労働者に適法に法外時間外労働を命ずることができるためには、事前に36協定を締結して、行政官庁(労基署)に届出ておかねばならない。事後の締結は、違法性を阻却しない。36協定を締結したが、届出しなかった場合の時間外労働は、違法とまではいえない。
 (1)36協定の法的効力
 違法性阻却説は、使用者が労働者に時間外労働させることの違法性を36協定の締結によって阻却するとする。使用者が責任を追及されるべき違法性を阻却するものだから、使用者は労基法119条所定の刑事罰を免れることになるという(免罰的効果)。36協定の法的効果は、この使用者免罰に限定されるとする。そうだとすると、労働者は、使用者の時間外労働命令に従う義務がないことになる。
 違法な時間外労働命令が36協定によって適法となるが、労働者はそれに従う義務がないというのでは、労働基準法の構造からしておかしいのではないか。36協定が事前に締結されていれば、使用者は労働者に適法に時間外労働を命ずることができ、労働者には時間外労働義務が発生すると考えるべきであろう。これは、民事的効果説とでも言うべき論であって、使用者にも労働者にも受け入れられてきたものである。
 (2)時間外労働となる時間
 1日の労働時間が8時間であるときは、8時間を越える時間が時間外労働時間である。
 1日の労働時間が8時間未満であるときは、8時間に達するまでは時間外労働時間にならず、8時間を越える時間が時間外労働時間となる。
 1週の労働時間が40時間であるときは、40時間を越える時間が時間外労働時間となる。
 1週の労働時間が40時間未満であるときは、40時間に達するまでは時間外労働にはならず、40時間を越える時間が時間外労働時間となる。
 フレックスタイム制の場合には、「清算期間内の総労働時間」マイナス「清算期間内の法定労働時間」の残り時間数が時間外労働時間となる。
 変形労働時間制の場合には、「変形期間内の総労働時間」マイナス「変形期間内の法定労働時間」の残り時間数が時間外労働時間となる。
 休日労働をした場合、休日労働したことによって週の労働時間が40時間を越えるときには、その超えた時間が時間外労働となる。
 (3)サーヴィス残業
 世上サーヴィス残業などと言われているが、時間外労働を会社にサーヴィスとして真心から無償提供する労働者がいるとも思えない。サーヴィス残業は、労働者の時間外労働を会社が把握しておらず、時間外割増賃金を支払っていない状態を言い表わしている。仮に知らなかったとしても、かかる状態の発生が問題視されてからは、会社の知らなかったは通らない。また、労働者も唯唯諾諾と時間外割増賃金を会社に請求してこなかったのだから、極めて問題である。黙示の時間外労働命令に従ったとして、裁判所は、時間外割増賃金の支払いをさせるべきである。サーヴィス残業による会社の利益に関しては、推定利益額(「支払いを免れた金額」プラス「サーヴィス残業の会社利益寄与額」)への課税強化をすべきである。
 (4)みなし労働時間
 労働には、会社内で働く内勤と会社外で働く外勤とがある。出張中の労働や外回りの外勤の場合、使用者は労働者の時間管理に困難を感ずることがあろう。労働時間の自己申告には、使用者の不信感があろう。正直な申告時間数を疑われる労働者は、使用者を許し難くおもうだろう。車、住宅などの販売をする労働者をみなし労働時間で処遇すれば、販売台数、販売棟数が減ってしまうかもしれないだろう。
 そこで、みなし労働時間制を採用する場合、通常の労働時間労働したものとみなすものと通常必要な労働時間労働したものとみなすものの二つについて規定している。会社内で5時間労働して、その後外まわりをした場合、みなし労働時間制では8時間労働したことになる。会社内で5時間労働した後に外回りをしたが当該外勤労働は通常5時間を必要とするものとみなすのであれば、1日10時間労働したこととなって、時間外労働は2時間である。それを無理やり、3時間のみなし時間とするのは、問題である。外勤労働者についてみなし労働時間だということにしておけば、時間外割増賃金を払わなくてよいなどと言う使用者がいる。その認識は、間違いである。時間管理は、外勤だから不可能などということはない。携帯電話、モバイルPC、GSなどの器機により労働者の居場所、移動距離は簡単に判明するし、器機を通じての労務指揮は可能である。チーム外勤でチームに時間管理者がいるときには、みなし労働時間によるべきではない。