錚吾労働法

一九二回 労働時間と時間外労働⑪
 (11)代替休暇
 労基法37条3項の協定は、時間外労働をした時間に対して支払われるべき割増賃金の代替として休暇を設定することを内容とする協定である。時間外労働時間に相当する割増賃金の支払に代えて通常の労働時間の賃金が支払われる休暇であるから、労基法39条の有給休暇ではないが、有給代替休暇といってよい。使用者が労働者に有給代替休暇を与え、労働者が代替休暇を請求しうるためには、使用者と過半数労働組合または従業員の過半数代表者との間において、代替休暇協定を締結しておかなければならない。これを37協定という。この37条協定の代替休暇は、時間外労働時間の割増賃金額相当分の休暇ではないから、時間外労働時間の割増賃金額の全体を代替休暇としてしまうと、労働者にとって不利益を甘受させることとなって、適当ではない。また年次有給休暇プラス代替休暇となる休暇システムが、かえって労働者の休暇取得の仕方をよりコマ切れ的なものにし、取得しにくくなる可能性もある。
 従って、上に述べた様な好ましくない結果を回避することが大切である。37条協定は、代替休暇の対象となる時間と時間の計算方法について定めなければならない。法内残業時間を代替休暇の対象とするのか、法外残業時間をも代替休暇の対象とするのか、法外残業時間の内の何時間分を代替休暇とし、労働者に生ずる不利益部分を残余賃金として支払うのかについてハッキリさせておかねばならない。例えば、最も分かりやすい時間計算の仕方は、賃金割増率を時間割増率とし、時間外労働1時間を1.25時間と計算するという仕方である。代替休暇制度を導入した結果として、休暇の取得がし難くなってはいけない。代替休暇の単位をどのように設定するかを明示しなければならない。代替休暇の単位は、1日単位、または半日単位でなければならない。時間単位や分単位は、許されない。休憩は休暇ではないから、休憩時間を増やす仕方はあり得ない。
 代替休暇を与えることが出来る期間の定めを置かなければならない。それは、労基法33条または労基法36条時間外労働が1ヵ月について60時間を超えた当該1ヵ月の末日の翌日から2箇月以内とされている。従って、3月中に時間外労働時間が60時間を超えた場合は、3月の末日3月31日の翌日の4月1日から2カ月以内、つまり5月31日までの間に代替休暇を取得させることになる。ただここで疑問が生ずる。15日締め切り月末払いの場合、15日までの時間外労働時間30時間と末日までの時間外労働時間30時間は、15日までの時間外労働時間30時間分の割増賃金は月末に支払われるが、16日以降の時間外労働時間30時間分の割増賃金は、翌月末に支払われることになる。その支払いに替わるのが代替休暇であるから、各月末には代替休暇の単位とは別個の累積休暇計算が示されなければならないのではないか。
 時間外労働時間数は、代替休暇を付与するときには、時間外労働の賃金の割増率を乗じて休暇用の時間に変換しなければならない。1カ月60時間までの休暇代替時間は60時間×1.25で75時間、60時間を超える時間については1時間あたりを1.5時間として換算する。要は、時間外労働の状況に応じた賃金の割増率を時間の割増率と読みかえて、1時間当たりを何時間かに換算してその合計時間数を休暇日数へと換算することとなる。