錚吾労働法

一九四回 労働時間と時間外労働⑭時間外労働の拒否
 時間外労働は、好ましいものではない。使用者が、労働者に時間外労働を指示または命令することがある。多くの労働者が、時間外労働をしてでもより多くの賃金を得たいと考えているようである。時間外労働を少なくしたり、しないようにして労働のチャンスを失業者に与えたり、非正規労働者正規雇用のチャンスを与えたりする試みは、未だになされていないようである。
 ジョブ・シェアリングの実現は、時間外労働の雇用労働者の側からの個別または集団的な、しかも使用者側と呼応する自己規制なくしては、実現不可能である。しかし、長期の経済の不調は、ジョブロス層をば拡大し、賃金の低下を招来しているので、一方では時間外労働が賃金所得の割合を増加させているばかりでなく、他方ではいわゆるサーヴィス残業によって自らの雇用と企業そのものを守るという複雑な状況が見られるようになっている。
 時間外労働の大まかな事柄については、既に述べてある。ここでは、設問して、知識をより確実なものにするよう学生各自に期待します。
 ①使用者が労働者に時間外労働を命ずることができるようになるためには、どのようなことを必要とするか。
 ②1週40時間、1日8時間を超える労働時間を設定する労働契約は、超えている部分について無効であるが、36協定をもって時間外労働を有効にさせることができるのは、どうしてであるか。
 ③時間外労働は、労災の原因の一つとなっているから、労災予防の見地からの時間外労働の規制が不可欠である。では、労災の予防や労働者の健康に維持のために、どのような時間外労働規制がなされているか。
 ③時間外労働に対しては、使用者は、時間外労働手当を支給しなければならないことになっている。時間外労働の仕方に応じて時間外労働に対する賃金の割増率は、どのようになっているか。
 ④割増賃金を計算するときに、その基礎となる賃金が明確化されなければならないが、いかなる賃金費目が計算の基礎となり、または計算の基礎とならないか。賃金表の各賃金について、計算の基礎となるかどうかを検討されたい。
 ⑤使用者が時間外労働を指示または命じているときに、これを拒否することができる場合には、どのような場合が考えられるか。
 ⑥時間外労働の指示または命令に従わない労働者を、使用者は解雇したり、あるいは夏季一時金、年末一時金の支給に際して評価を低くすることが出来るか。
 ⑦時間外労働手当が支払われない場合に、その手当を支払うよう使用者に請求することが出来るのは当然だが、不支給額を通常の労働時間に換算しなおして、その時間相当分を働かないことは可能なのか。賃金には後払いの原則があるが、未払い賃金と労働との同時履行の抗弁権という考え方は、成立する余地があるのか。
 ⑧労働組合がノ―残業運動を呼び掛けているときに、組合員または組合役員を時間外労働から外すことはできるのか。不利益取扱の申立があったとして、労働委員会は時間外労働をさせるよう使用者に命令することができるのか、また時間外労働を他の労働者と同様にしたものとして使用者に割増賃金の支給を命令することができるのか。
 ⑨時間外労働の賃金割増率のアップを目的とする時間外労働の一斉拒否(ストライキ)は、正当な争議行為であるか。時間外労働のスローダウンの争議行為に対する使用者の割増賃金減額の措置は、適法なのか。
 ⑩非常災害時の時間外労働命令を、自宅被災した労働者は拒否して差し支えないか。
 ⑪変形労働時間で1日10時間労働することになっていた場合に、12時間労働させたとしよう。この2時間については、時間外労働として時間外m労働手当を支給しなければならないか。その2時間分についても、その後の労働時間調整によって対応すればすむことか。2時間の時間外労働は、労働者の時間外労働拒否を正当化するか。
 ⑫サーヴィス残業時間に対する使用者の対応不作為を理由として、その時間相当分の労働拒否はできるのか。ストライキならば正当か。
 以上の諸問題について、各自において考えてください。