錚吾労働法

一九八回 労働契約④労働契約と期間
 かって、労働契約は、その期間を定めるときは、1年を超える期間を定めてはならないとされていた。労働者を雇用する使用者は労働者に対して(労働者の親とも結託して)何をしでかすか分からないという警戒感を、国も隠していなかったのである。岡谷で数年働けば、娘は父親に背負われて尾根超えして高山に帰郷することになるという小説「ああ野麦峠」の社会的衝撃は絶大であった。小説「蟹工船」も、同様であった。本当にそうであったのかは、検証されなければならない。現代でも、労働時間管理がでたらめであるため、若い労働者であっても死んでしまうような職場がある。そういうことを考えると、労働契約の期間の定めは、労働時間の定めと共に、重要な役割を担ってきたと言えるのである。期間の定めは、労働契約の当事者が合意して定めるべきことである。
 「期間の定めのない労働契約」は、
 (1)「労働契約を締結するときに労働契約期間に関する当事者の交渉が無かったとき」、
 (2)「期間の定めを契約に定めないことを当事者が合意したとき」、
 (3)「期間についての交渉を敢えて契約締結後とすることを合意したとき」、
 (4)「期間の定めに当事者が無知であったとき」などに生ずることになる。
 労働契約の期間の定めがなされていないと、一方では、労働者の不当な拘束の問題に通ずる恐れがあり、他方で労働契約の終了に関わる紛争の原因となる。従って、本来は期間の定めをすべきであるときには、明確な期間を設定し、労働者にその旨をよく理解させ(了解した旨の一文をとっておくのもよい)て合意するようにすべきである。(1)と(2)は、「期間の定めのない労働契約」が締結される典型的な例である。期間の定めのある労働契約か、それとも期間の定めのない労働契約であるかは、原則として、労働契約締結時に決定され、そのいづれかかの判断基準時もまた契約締結時である。(3)の場合は、労働契約の締結時に期間の定めをすることがなお難しいとき、例えば、不確定期日(労働契約を締結した目的ー工事の完成ー)を契約終了日と明記しておけば良いことである。工事の廃止の場合には、工事の完成はあり得ないこととなるが、契約終了の原因となる。
 労働者保護の観点から言うと、労働者が無理やりに拘束され、期間が長期に及ぶことは好ましいこととは言えなかった。しかし、労務者を[タコ部屋」に収容するとか、量で監禁同様にするとか、抗議すると暴行して抵抗しないようにするとか、病気になるまで働かされるとかのかってのおぞましい出来事は、ほとんど無くなっている。しかし、短期間に重労働や、長時間労働をさせ、それが原因となって精神的な疾病を得たり、あるいは自殺に追い込むなど悪辣な使用者が、登場してきている。「期間の定めのない労働契約」であっても「名ばかり管理職」の「サーヴィス残業」などという、事実上の「低賃金で短期使い捨て」の労務管理が大手を振って行われるようになってしまった。「居酒屋」、「弁当屋」、「エステ屋」、「解体屋」などなどの中には、市場から退却願いたい使用者がいるのではないかと、訝る最近である。