錚吾労働法

第一一回 採用内定と試用期間
 近時の労働市場シュリンクにより、求職者は企業から採用内定の通知を待望しているようです。しかし、採用内定が後日取り消されたということもあります。企業は、最初から採用という通知をしないで、まずは採用を内定するのでしょうか。最近は、採用の内々定というのもあり、企業は正式採用に慎重になっているようです。
 では、採用内定とは、どういうことでしょうか。一般的に、企業は、採用内定を通知すると同時に、取り消し自由が明記された入社誓約書の提出を求めています。労働契約の申し込みの誘引、労働契約締結の申し込みおよびそれに対する応諾という手続きの流れを考えたときに、採用内定は、その他労働契約締結の意思表示を予定する旨の通知がないときには、労働契約の締結の申し込みに対する企業の応諾を意味することになるでしょう。
 内定日から4月1日までの間に取り消し事由が生じなければ、予定通り4月1日から労働関係が開始するというのが、内定の趣旨であろう。最高裁は、このことを解約権が使用者に留保された、始期附きの労働契約が、採用内定によって締結されたのだと説明しています(大日本印刷事件)。
 めでたく4月1日に出社したとしても、次に試用期間があります。試用期間とは、文字通り試しに使ってみる期間で、観察期間であるといってよいでしょう。ひとの能力・力量・期待可能性は、そう簡単には判定できないので、実際の労働によって判断する必要があるとされています。これが、試用期間を定める目的です。判断ミスだったというときに備えて、使用者に解約権が留保されている期間が、試用期間です(三菱樹脂事件最高裁判決)。
 君はもう来なくてよいと入社前に、または入社後間もなくに言われるのは、愉快なことではない。解約権の行使は、解雇に当たります。その解雇の効力(有効か無効か)については、後述します。