錚吾労働法

一九回 賃金ーその5定昇とベア
 春闘ともなりますと、新聞紙上に定昇とかべアとかの言葉が頻繁に登場します。定昇とベアの区別をしっかりと認識しましょう。
 定昇つまり定期昇給は、号俸が1ランク上がることを言います。現在の号俸が1000で、その上が1100だとしますと、1100の号俸になることです。号俸があがることです。
 ベアは、同じ号俸が、1000から1100になることをいいます。号俸そのものに変化はありません。1100の号俸の上の号俸が1200だとしますと、定昇とベアを同時に行うと、賃金が200アップすることになり、定昇のみの100アップとは違います。
 労働者にとっては、定昇とベアの同時実施が望ましい。労働者は、育児、介護、次世代への教育投資、住宅の取得、住宅のエコ化計画などの資金を要する事柄を考慮せねばなりませんし、疾病への対応資金も蓄えていかなければなりません。
 使用者にとっては、労働者に支払う賃金が需要を生み出す源泉ともなることを考慮しつつも、将来の投資、内部留保の蓄積、財務体質の強化、新事業の展開など考慮すべきこといが多々あります。
こういうことまで考慮すると、労使両当事者は、個々の労働契約の当事者であり、社会的当事者とも言えるのです。
 定昇もベアもなし、定昇のみでベアなしなどといって労使交渉が難航するのは、年間何カ月という形でのボーナス額に直結するからです。産業界全体で、巨額の賃金を支出することとなります。家庭の大蔵大臣の支出仕分けが厳しいと、資金の還流が阻害されます。経団連と連合の各トップは、こんなことを考えながら交渉しているのです。