錚吾労働法

三三回 その他の男女差別
 かっては、女性労働者に早期に退職を促すような人事管理がなされておりました。しかし、かってはと言って良いのかどうか迷います。ある町の町長が、女性職員は結婚したら退職するのは当然で、その後は臨時職員になればいいじゃないかと言っているのを聞いたからです。当の女性も、町長さんが考えて下さるから感激といっておりました。感心しないなあと労働法の教員は考えるのですよ。
 さてその結婚退職制度は、寿退職とも言っておりましたが、男性には結婚退職制度はなく、女性のみが退職を迫られるものであったがために、それ自体差別と言えるが、もっと勤めたい女性が余儀なく結婚を延期したり、諦めたりして婚姻の自由を(憲法24条1項)制約させられる結果となります。ですから、いかなる形式であるかを問わず、つまり労働契約、就業規則労働協約で定めてあっても、公序に反して無効たらざるを得ないのです(住友セメント事件・東京地裁判決)。雇用法9条の定めを熟読して下さい。
 妊娠、出産、労基法65条の産前産後の休業などを理由として、解雇その他不利益な扱いをしてはなりません。また、育児介護休業法は、育児のための勤務時間短縮措置(23条)等を定めています。女性が安心して、働きながら育児が出来るようにするためには何をしたら良いのか。使用者がこれを考えねばならない時代になっているので、使用者は、政治家同様、ボーとしていてはいけませんよ。
 賞与の支給や昇給の要件として、出勤率や稼働率を何パーセント以上と定めている場合に、女性の妊娠・出産・育児・介護に要した休業日数を出勤率や稼働率の計算から差し引いてしまうと、賞与が減額されたり、支給されなくなったり、昇給できなくなるというような事例が生ずることになります。特に、賞与の不支給をもたらす規定は、公序に反して無効ということにならざるを得ないのです。(日本シェーリング事件・最高裁判決;東朋学園事件・最高裁判決)。
 しかし同時に、賞与の支給基準において、女性の休業や時間短縮に応じて賞与減額基準を定めることは、公序に違反するとまでは言えないとも言っております(東朋学園時間・最高裁判決)。これは、ゼロはだめだが、満額でなくてもいいよという意味です。減額するときには、もっと優しく神経を使ってやるべきで、ぶった切るような感覚ではいけませんよ、と言っているのです。最高裁の言っていることは重要なことなので、よく注意して下さい。
 同様な紛争が生ずる可能性があるのは、生理日の就業が著しく困難な女性の場合です。女性から休暇の請求があったときは、使用者は、女性を就業させてはなりません(労基法68条)。この規定のややこしさは、請求があったときは、就業させてはならないと言っていることです。請求があった時ときは、休暇を与えなければならないとは、言ってません。使用者が就業させないから、反射的に休暇となるに過ぎないとも読めるため、生理休暇の権利性が薄弱となってしまうのです。休暇を与えなければならないとハッキリと書くべきでしょう。問題は、賞与や昇給に生理休暇がどのように影響するのかです。上に述べた最高裁の見解を参考にしたら良いのではないでしょうか。