錚吾労働法

三二回 男女同一賃金の原則ーその3具体的な問題
 男女間で昇格で差別がありますと、差別されたほうは、昇格による賃金上昇の利益を侵害されてしまいます。そうすることに格別の合理的な理由がないとか、その合理性を立証出来ないときには、使用者は、その責任を追及されることになります。
 男性をほぼ例外なく昇格させているのに拘らず、女性を全く昇格させないさせないとか、例外的にしか昇格させていないときには、実質的には昇格制度を悪用して女性に対して賃金差別をしていると判断されても仕方ないでしょう(芝信用金庫事件・東京高裁判決)。
 年齢のみを基準として昇格させている事業場において、女性を年齢に応じて昇格させなかった場合、女性に対する処遇差別があったとし、使用者の行為は不法行為に当たるとしたものもあります。この例では、裁判所は、労基法の賃金差別とする必要はなく、雇均法6条1項の問題として扱えば足りるとしました(社会保険診療報酬支払基金事件・東京地裁判決)。
 コース別採用、コース別処遇が行われている結果として、男女間に賃金格差が発生してしまいます。このコース別採用・コース別処遇は、元々、雇均法制定(昭和47年)を契機として、違法とは言えないが好ましくない制度として採用された経緯がありました。当初は、差別しないよう努力せよという何ともしまりのない話だったので、こんな品性を欠く制度が大企業で採用されたのです。
 高卒の証券会社の男性労働者は13年後にはその大半が課長代理に昇格しているのに、女性では同年次採用者であっても昇格した者がいないという事態が生じました。裁判所は、雇均法の平成11年の改正により、努力義務は禁止に高められたので、それ以後においては、このようなコース別人事管理は維持されえないものとし、慰謝料の支払いを命じました(野村証券事件。・東京地裁判決)。
 定年年齢が、男女で違う場合があります。こんなことをされると、将来の年金額が低額になってしまいますから、気安く出来ることではありません。就業規則に男性60歳、女性55歳の定年規定が問題となった事例では、男女とも60歳までは職務遂行能力にさしたる差もないことなどからして、この規定は公序に反する無効な規定であるとしました(民法90条)。無効だというのは、55歳の女性労働者にこの就業規則を適用してはならないということなのです(日産自動車事件・最高裁判決)。雇均法改正前の事件ですが、努力義務などと言わなかったのはさすがの最高裁でした。