錚吾労働法

四九回 休日と年次有給休暇ーその3年次有給休暇
 年次有給休暇は、通常、単に年休と言われています。年休に関しては、労基法39条に詳しく定められております。労基法39条1項は、「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない」としています。
 「使用者は、・・・与えなければならない」と書いてあって、「労働者は、・・・取得する」と書いてないんですよ。年休を取りづらい職場の雰囲気があるとか、年休を申し出ると嫌な顔をされることがありましたか。年休取ったら、取ってない労働者に比べて、一時金で差をつけられたという人も、いるやも知れませんな。使用者が労働者に与える年休という規定のしかたでは、こんなことが起こっても、ちっとも不思議じゃないわね。法律の条文を起こすときには、心得ておかなくっちゃな。
 年休は、使用者から労働者に付与されるものじゃなくて、労働者が使用者から、法所定の要件を満たしたときに当然に取得するものなんだよ。だから、労基法39条1項の定めは、誤解を生みやすいと言えるんだよ。労働者の皆さんは、自分の権利をいばって主張し、取得しなければ駄目なんだよ。
 4月に就職して1年目の労働者は、9月末までに8割出勤すれば、
10月1日には10日間の年休権を取得することになるんだよ。(8割出勤の要件を満たさない労働者には、年休権は、発生しません。)そして、次の年の10月1日には11日の年休権を取得します。2年後には12日、3年後には14日、4年後には16日、5年後には18日、6年後以降は20日の年休権を取得することになります(労基法39条2項)。これは、法定の年休日数なので、これ以上の年休権を取得するためには、労使間の個別または集団的な合意をすべきでしょう。
 年休の取得は労働者の権利なので、年休取得を使用者の許可に係らしめることは出来ません。年休の取得の届け出は、必要です。無届けの年休取得は駄目なことくらいは、常識で分からなきゃいけないよ。会社に対する届出用紙に、「年休を使って何するのか」とか、「どこへ行くのか」、「誰と過ごすのか」などの記入欄があるかもしれない。会社は、もしこんなことやっていたら、即刻やめなさい。お節介だと言うの。「あれとこれとが、同時に同期間の年休とは怪しい」などと、デバカメ(セクハラ)したらいけない。
 届け出したら、お前は継続勤務しなかったから駄目と言いなさんなよ。「あの日とこの日は腹痛で欠勤しただろ、その上この日は辞めると言って騒いで欠勤だよ。だから、お前には年休やらないつーの」。こんなことを言う会社は、最悪だね。「継続勤務」というのは、無遅刻、無早退、無欠勤でなきゃ駄目と言ってるんじゃないよ。「継続勤務」というのは、「雇用契約が継続している状態」を意味しているんだよ。
 じゃあ、「全労働日」は何を意味しているか分かるかな。「全労働日」は「1年間の内で労働者が就労義務のある総ての日」と考えればいいんじゃないかな。逆を言うと、休日、休暇日、祝日、年末年始や盆などの日数は、「全労働日」の計算から除かなくちゃいけない。
 法定の年休最長日数は、20日だ。問題は、「ヨーロッパのようにヴァカンスしたいよ」と言いながら、クソ真面目で休むの嫌いなあなたなの。これじゃあ恥ずかしいってんで、「計画年休」(労基法39条5項)までやってるの。5項をよく読んでごらんなさいよ。あなた方の無自覚に苛立ったかなんか知らないけどね、立法府が他人の権利の行使の仕方にまで労使を巻き込みながら差し出がましいことを言うなんざ、世も末だと言いたくなるよ。「イラッ」という言葉は、こんなことを労基法に書きこむ連中がいることを知ったときのためにあるんじゃないかと、思ったね。計画年休の下では、「年休の5日分は、他人決定によって取得させられる」ものになっちゃった。仕方が無いから合法だと言う者もいるけれど、そういう物分かりの良い妥協が、日本を駄目にするんだ。反省しな。
年休権は、労基法39条1項の要件が満たされることによって当然に発生するものである。同条4項は、使用者は、有給休暇を労働者の「請求する時季」に与えなければならないとしていますが、発生しているので請求という余地はない。従って、「請求する時季」とは、「労働者が指定する年休の開始日」のことであると、理解されている。