錚吾労働法

五〇回 休日と年次有給休暇ーその4年次有給休暇
 「時季変更権」は、労働者が年休権を行使すると「事業の正常な運営を妨げる」こととなる場合に、「他の時季」に年休権を行使させることができる権利なんだね。嫌がらせのための時季変更権の行使は、ないではないが、論外である。年休権の行使が使用者をただ困らせるためにのみ行われれば、それは「年休権の乱用」だと言われるでしょ。「時季変更権の乱用」もしちゃあいけない。
 事業の正常な運営をまたげることとなる場合とは、労働者が取得する日時に、当該の労働者が労働しないと、その事業場の全体またはその一部の事業の運営が一体として阻害されることを言う。誰であれ働かなければ生ずる業務の阻害は、これには当たらない。勤務割の多少の手直しで対応可能なのに、それをしないでする時季変更は、許されないだろう。逆にそのようにしても代替者の確保が出来ないのであれば、時季変更権の行使は、やむを得ないとされるんじゃないかな。理屈の問題もあるが、バランス感覚で見てちょうだいよ。
 労働者の全員参加を前提してなされる能力開発や技能向上を目的とする「研修期間中の年休権の行使」に対する時季変更権の行使は、参加しなければその後の業務の遂行に障害が生ずる惧れが客観的に予見できるときには、適法だろうな。旧国鉄では、研修日の前日または当日に年休で休むなんてことが、「順法闘争」の掛け声の下で当たり前のように行われたことがあったんだよ。
 使用者と話し合って年休権を放棄する契約(「放棄契約」)をしたり、使用者に買い上げてもらう契約(「買い上げ契約」)を締結しても、法的効力はないよ。年休権を行使しないこと、または行使しなかったことから生ずる不利益は、労働者が甘受すべきでじゃないのかい。解雇された者が未消化の年休を買い上げてくれと主張することがある。個別紛争処理の現場では、こんな主張がよくされているようだ。あっせんの成否がこれを認めるかどうかによることも、結構多いと言われている。あっせん者は、忸怩たる思いらしいよ。
 年休を取らないで労働した者に賞与加給を約する契約も、当たり前だが有効だとは言えない。逆に、年休取得を理由として、一時金査定を低くしたり、定期昇給させないなどの不利益を与えるような使用者の措置もまた、許されないことである。
 計画年休を定める書面による協定に反対して、休めと言われてもそれを拒否する者がいるとして、使用者はこの労働者を業務命令違反者として扱うことが出来ますか。俺は休まないといって停職になったら、笑い話にもならないね。しかし、こんなことが紛争になったら、書面による協定の有効性が問われることになるんじゃないかな。