錚吾労働法

五五回 労働時間・休憩・休日の適用除外
 労基法41条は、労働時間等について「適用除外」についても定めています。適用除外というのは、労基法を適用しませんという意味です。適用しませんというのですから、適用されない労働者についての詳しい情報が必要となります。
 その第1は、労基法の別表第1第6号(林業を除く)または第7号に掲げる事業に従事する者です。                 別表第1第6号は、「農林業」ですが、林業を除くとしていますから、「農業」です。「土地の耕作若しくは開墾」、「植物の栽植、栽培、採取」は、農業の代表的なものと言って良いでしょう。農業は、自然相手の仕事ですから、季節、天候に左右されるものです。また、農閑期と農繁期とがあり、年間を通じて安定した労働時間を設定することは、不可能です。農繁期に休まれてしまうと、農作業が停滞することになるでしょう。収穫・出荷作業は、遅滞なく行われねばなりません。これらの事業に従事する者に労働時間等の適用除外は、常識的に分かることだよね。
 別表第1第7号は、「動物の飼育」又は「水産動植物の採捕若しくは養殖」の事業その他「畜産、養蚕又は水産」の事業となっています。動物や魚類は、人間の時間に合わせて行動したりはしません。人間がその動きに合わせざるを得ません。魚群を前に寝ていては、漁業は上がったりですよね。繭を作ろうとする直前の蚕の食欲に、人間が対応しなければなりません。動物はいつも元気ではありません。病気にもなりますし、伝染病にも罹ります。人間は、動物時間に自分を合わせなければいけません。これも、適用除外は当然の事柄と言ってもいいのじゃないかな。
 第2は、労基法41条2号の「管理監督者」又は「機密事務取扱者」です。
 誰が管理監督者かは、形式的に判断してはいけません。部長であったり、店長であったりの肩書は、管理監督者であるかどうかを判断する指標とはなりますが、その人が指揮権をもっていないとか、労務管理する主体でもないという事情があれば、管理監督者とは言えないでしょう。要は、使用者と一体となって、経営の任に当たり、労働条件の決定に参画し、労務指揮権を行使する者達を、管理監督者と言うのです。最近は、「名ばかり管理職」がいるとのことです。注意しましょう。適用除外されませんので、高額な時間外手当を請求されることになりますよ。
 機密事務取扱者とは、例えば「秘書」のように、経営者や管理監督者の活動と一体性をもって活動する者であるために、厳格な労働時間に服させることが不適当であると判断される者を言うのです。 
 第3は、「監視断続労働従事者」で、労基法41条3号にその定めがあります。「監視労働」と「断続労働」に従事する者が、適用除外の対象者となります。
 監視労働は、常態的に身体的・精神的な緊張の少ない監視労働を言います。一定の部署において監視業務に従事し、身体的・精神的緊張の少ないものをいう。プラントの計器の監視や、原子炉の計器の監視など緊張度の高い監視業務は、ここに言う監視労働とは言わない。販売店における防犯監視業務も、緊張を伴うものであって、ここに言う監視労働ではない。
 監視労働で問題となったのは宿日直勤務であった。宿日直勤務が監視労働で労働時間法の適用除外となるならば、本務以外に行われる宿日直のための36条協定を結ばなくても良いということになります。これは、思わぬ結果であると驚く向きもありましょうが、適用除外される以上は、この結論は動かしがたいものなのですよ。
 「遠足」や「修学旅行」では教師の皆さんは、生徒の動きを常に監視しつつ引率し、付き添ってています。かっては、教師の遠足や修学旅行での引率等を監視労働であるとして、超勤手当を支払わないという事例がありました。しかし、教師の引率等の行為は、労働時間法が適用除外になるようなものではありませんので、学校関係者は気をつけて下さい。
 「断続的労働」というのは、休憩時間は少ないが「手待ち時間」が多い労働のことです。手待ち時間は、業務を行うのに備えている時間のことを言います。例えば、寄宿舎の賄い人、車両出入庫の少ない倉庫の出入庫記録係などの労働は、断続的労働であると言えるでしょう。
 深夜業に関しては適用除外はありません。監視・断続労働が深夜に及ぶときは、深夜手当を支払う必要があります。知らんかったなどと言ってはいけないよ。また、監視・断続労働が、労働時間法の適用除外となるのは、行政官庁が許可した場合に限ります。使用者が勝手に適用除外など出来るわけはないので、正確な知識が必要ですよ。