錚吾労働法

五八回 年少者の保護②労働契約
 未成年者が労働するに際して、労働契約をその使用者との間に締結することになります。労基法58条1項は、「親権者」又は「後見人」は未成年者に代わって労働契約を締結してはならないとしています。民法5条は、未成年者の法律行為を「法定代理人」(親権者又は後見人)の同意の下に置き制限しています。労基法58条1項は、未成年者の行為能力を労働契約について承認するものではなく、未成年者の労働契約の締結を法定代理人の同意の下に置いていることに何の変更もありません。労基法58条1項は、親権者又は法定代理人が未成年者を食い物にしないようにする趣旨の規定です。
 未成年者の使用者となる者は、未成年者と労働契約を締結する際には、必ず「親権者または法定代理人の同意書」を提出させて下さい。未成年者以外の者が「ワシが代わって署名し、印鑑押したるわ」などと言っても、決して「それじゃあ、・・」などと対応しては駄目ですぞ。そんなことを言ってくるのは悪人で、それに応ずるのも悪人なんだから。未成年女子などを食い物にする手合いはもういないと断言すること、出来ないんじゃないかな。
 親権者又は後見人は、未成年労働者の側に立って、未成年労働者の利益を擁護しなくてはならないのです。だから、同意したらそれでおしまいではなくて、締結した労働契約が未成年労働者に不利だと分かったならば、親権者又は後見人は、労働契約を解除することが出来るのです。親権者又は後見人ばかりではなく、行政官庁にも労働契約を解除する権能が付与されています。解除するのは、労働基準監督署長です。
 未成年労働者が順調に労働生活を営んでいる場合に、労働場所がひと駅遠方に変更になったから不利になったといって親権者が会社にねじ込んで来るのは、なん癖をつける典型的なケース。「こんなことはかなわんわ」と言って労働契約を解除したらいけませんよ。未成年労働者に労働契約を存続させ難い理由があるわけではないから。使用者は、毅然とした対応をすべきでしょう。未成年者だといっても、親権者や使用者に唯唯諾諾とすることはありません。自分の意見をハッキリと言いましょう。「いちいち口を差し挟まないで頂戴」という態度が、大切なことだ。
 とはいえだね、親権者の立場からわが子に不利益が生じているときには、未成年労働者の意に反してでも、労働契約を解除せざるを得ない場合もあるだろうね。最近は、「大切なお子様をお預かりして・・」なんて古風なことを言ったら駄目だということになっているな。その分ハラスメントに歯止めがなくなってる例外的な所があるとも限らない。こんな劣悪な所にわが子を置いて平気な親は、滅多にいないだろうよ。「親がしゃしゃり出て」なんて声に妨げられては駄目だね。使用者がとんでもない輩だと分かったら、労働契約を解除しないと駄目ですよ。何の遠慮もいらないね。