錚吾労働法

六七回 原子炉事故と労働②
 250mSv。これは、福島の事故原子炉で働いている労働者が被曝する線量の上限とされる線量です。厚労省は、3月15日、省令改正により、事故原子炉での「緊急作業時」の限定して、体にうける放射線の被曝線量の限度を100mSv(規則7条2項1号)から250mSvに引き上げた旨公表した(「国際放射線防護委員会」は、緊急作業時の人命救助の際の被曝線量の限度を500mSvとしている)。平時における被曝限度は、5年間について100mSvを超えず、かつ年間50mSvを超えてはならないとされている(但し、「女性」については3カ月について5mSv、「妊娠中の女性」については出産までの間、1mSvないし2mSv)。
 「ベント作業」を行った労働者は、「タイべック」特殊な全身つなぎ服)とマスクを着用したが、約10分間で100mSv以上の放射線をあびたとされる(読売新聞3月16日)。この数値は、成人男性が1年間にあびる放射線量の100倍に相当する。現場では400mSvに達する線量を示す場所もあり、1号機のような古い原発では配管が複雑で身体の自由もままならない劣悪環境である。現場監督者の適切かつ迅速な労働者への指示によって、辛うじて作業が行われているようである。「時間管理」を間違えれば、健康破壊が生ずるであろう。
 過酷な労働を強いられる労働者への「安全配慮義務」は、事業者たる東電及び東電関連会社だけでなく、原子炉等規制法に基づき「ベント」を命じたり、「自衛官」を派遣している国、「消防士」を派遣している都などの自治体によって履行されなければならない。混乱の最中であるから、安全配慮義務の履行状況に不安が残る。原子炉から排出された放射性物質は広範に及んでおり、瓦礫などにも高濃度で付着しているところがある筈である。従って、自衛官、消防士、消防団、被災地企業の従業員などなどの「健康管理」も不可欠である。通常の健康管理とは違う健康管理が行われねばならない。そのための、「健康管理手帳」を、国の責任において早急に調製し、関係者に配布せねばならない。
 原子炉及びその近辺での労働に従事している者への、配慮が行き届いていない。「十分な睡眠を確保することができる施設」や「休憩地」への「ヘリコプターによる搬送」、栄養を考慮した「食事の供給」、毎日の「入浴や娯楽の提供」による「緊張の緩和」、「放射線量のカウント」、「医師による毎日の健康診断」と「労働者及び事業者に対する労働停止命令」などすべきことは、多々あるはずである。内閣も、「作業命令」を発する以上は、労働者に対する「配慮命令」をも同時に発してしかるべきであろう。発電送電事業は、典型的な公共事業体であり、経営者の苦労の少ない企業である。苦労の足りなさが、今回の作業の「バックアップ体制」の不備に端的に表れているように思われる。