錚吾労働法

九二回 公務員と処分④
 職員が懲戒免職などの処分に付される理由は、法定事項です。これを国公法82条1項2号の「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」について、考えてみましょう。ここに言う「職務上の義務」は、国公法96条以下の「服務規定」に定めがある義務です。ここには、「公益勤務義務」、「全力専念義務」、「「法令順守義務」、「命令忠実遂行義務」、「信用失墜等不作為義務」、「職務専念義務」などの義務規定が置かれている。「職務上の義務に違反し」とは、これらの義務に違反するということです。職員が「義務違反行為」をすれば、懲戒免職などの処分に付される可能性があります。職員は、国民のためになろうと考えて、国民のために勤務する者です。このため、職員は、憲法上も国公法上も「国民全体の奉仕者」とされています。職員は、国民から負託された職務を遂行すべき者である。このため、職員には順守せねばならない義務の束が任務として課せられているのです。
 職員を「退職金が支給されない懲戒免職」にするためには、「職員の作為または不作為」への評価が、当該の職員をば「最早職場に留め置くことが出来ない」程度の「重大な結果をもたらした義務違反」だと言えるのでなければならない。「法令順守義務」と「命令忠実遂行義務」は、ときに職員を困難な立場に追い込む結果になるかもしれない。例えば、上司に指示または命令された作為または不作為が「法令違反」と評価されてしかるべきものもあろうからである。無論、上司の指示または命令は、適法であるのが普通である。しかし、そうでない場合も、稀には存在する。職員に課せられている「全力専念義務」は、職員が「注意力」をもって行うべき義務とされている。これは、法文上、明らかなことであろう。
 違法または不当な職務命令には、職員は、従ってはいけない。違法または不当な職務命令は、職務命令たりえない。従ってはいけないものに従えば、従ってはならない義務を犯して、違法または不当なことを行ったという二重の義務違反を敢えて行うことになるのである。そうならないように、職員は「注意力のすべてをその職務遂行のために用い」る義務を負うのである。上司の命令といえども、職員はそのまま従って良いかどうかを法的に吟味するために「注意力」を用いなければならない。
 「ドイツの公勤務法」では、このことは全く議論の余地が無い。「命令への盲従」がとんでもない結果を招来せしめたという歴史が、職員に対して「命令の合法性確認義務」、「違法命令不服従義務」を科しているからである。わが国公法には、かかる義務は明示されてはいないが、「注意力」という文言を用いて、これと同様の事柄を表現しているのであろう。「違法な命令に従ってしまった」という場合、その時点では、「違法だったとは知らないで、ただ従属的に従っただけだ」という抗弁がなされることがある。このような抗弁の当否については、「結果の重大性」、「引き起こされた公務の停滞」、「他の職員与えた影響」、「当該職員の地位」などを総合的に考慮して判断すべきである。管理職中の管理職たる地位にあった者は、職務の適法性についての洞察力を備えていた筈の者であるから、本来そのような抗弁をなし得る立場にはないと言っても良いのではないかと思う。