錚吾労働法

一一〇回 止むを得ない解雇
 「止むを得ない解雇」は、企業のリストラを目的として行う「経営上止むを得ない解雇」とは異なり、社会通念上いたしかたないとして是認されるされるかどうかが問題となる、解雇である。有効とされ、無効とされた事例を拾いあげておこう。
 ●有効とされた例
 教え子へのセクハラが報道された大学教授の解雇の例は、学内の適切な手続に従ってなされたとされた。
 自分の考えに固執するあまり同僚との協調性を欠き、上司の指示にも従わない者の解雇(山本香料事件・大阪地判平10.7.29)。
 トマト輸送に必要なベニヤ板なしで積み込みをしたのを注意した顧客に食ってかかって、会社の信用を失墜させたトラック運転手の解雇(善導寺運送事件・福岡地久留米支判平元.8.9)
 入社後数カ月しても仕事の内容を理解することができず、実務を停滞させた者の解雇(東京ビジネス学園事件・東京地決平4.2.19)。
 サラ金借金のため営業活動さえままならなくなった営業マンの解雇(日本電建事件・名古屋地判昭57.2.26)。
 いちいち記載していたら限がないので、これくらいにしときます。次は、無効例です。
 ●無効とされた例
 教育活動およびクラブ活動の指導にいずれも熱心な教諭の生徒への体罰は、熱心さの余りの行き過ぎた行為だあったが、解雇は過酷に過ぎる(大成学園事件・東京高判平18.1.26)。
 知的障害者施設において、生活支援員が施設利用者に怪我をさせたり、水をかけたりした行為等は、軽率を免れないが、職員としての地位を奪われるほどの非違行為とまでは言えない(本庄ひまわり福祉会事件・東京地判平18.1.23)。
 臨床検査技師としての技能に問題があり、協調性を欠く言動もあったが、いまだ解雇に値するものではない(大阪府保険医療財団事件・大阪地判平18.3.24)。
 有効とされ、無効とされた例は、多数あります。日ごろから裁判所の判例を読むように心がけてください。また、最近は、解雇事例を裁判所ではなく、労働局や労働委員会のあっせん事件として処理されることが多い。解決金の支払いで解決することを申請者ご望んでおり、職場復帰を望んでいないので、解決金の支払いによって終結することが多い。