錚吾労働法

一四三回 有期労働契約を規制すべきか⑤
 有期労働契約の入口規制は、連合など労働団体の皆さんの主張の熱心さのも関わらず、どうも具合が宜しくないように思うな。じゃあ、使用者団体がいう「有期労働契約の出口規制」はどうかな。厚労省が提示した案に「入口規制」と「出口規制」の両論があったから、テーブルはさんで空気銃(大砲じゃなくてね)撃ちあってるんじゃないのかな。こんなこと言ってても仕方ないから、有期労働契約の出口規制とは何を言ってるのかを理解しましょう。入口規制はなかなか難しいと言いましたが、じゃあ、出口規制は簡単カと言うと、そうでもありませんよ。
 有期労働契約の出口規制と言うのは、有期労働契約の更新拒絶事例の増加に何とか対処せねばならないという世論に何とかこたえられないかという政策課題への応答だと言う点では、入口規制と同根ですが、「有期労働契約の更新の回数」を制限したり、「有期労働契約の利用期間」を限定しようとするものです。有期労働契約を締結するときには、更新の存否または更新の可能性について労働者に明示しなければならないことになっています。更新が無く、期間満了で労働関係が無くなるのであれば、何の問題もありませんが、更新してくれとか、もっと働いてくれということが全く珍しくない関係であるのも事実ですわな。あるいは、労務管理なんてのはテンから考えて事のない使用者が、漫然と期間満了後労働関係を継続しているという場合もあるんですよ。
 労基法14条は、労働契約の期間については、「期間の定めのない労働契約」を除き、「一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約」、「三年までの期間を定める労働契約」、「五年までの期間を定める労働契約」の四種類を定めています。また、有期労働契約の解除の関する民法626条(「有期労働契約の解除)」、628条(「やむを得ない事由による有期労働契約の解除」)、629条(「有期労働契約の更新の推定)」は、労基法14条とともによく読めば、有期労働契約の出口規制は、既に一定程度実現されていることが判るよな。そうすると、一定の条件を満たす場合の更新拒絶を許さないとする規制も出口規制に含ませることが適当かと言う問題が、急浮上してくるわけだ。   30日前の解雇予告(労基法20条)が固定観念化していると思うけれど、「3箇月前にその予告をしなければならない」(民法626条2項)場合があることを、法学部の学生は知っていなくちゃならないよ。企業の法務担当や労働組合の組合員に言うとビックリするようだから、企業法務担当も組合員もてえしたことないんだよ。
 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転化を主張するのは、出口論というよりも、正規労働関係への入り口論というべきである。派遣労働者の正社員化(法的にはおかしな言い方だな)と似た所のある議論だが、どこがどのように違っているのか各自考えてくれよ。1年ごとの更新の場合、使用者がこうする理由には退職金を払いたくないというしみったれた根性があることが多いな。3年を越える勤続者に退職金を支給する定めがあるとしよう。2回まで更新しても3回目の更新はヤバいと思う使用者は、2回目の更新後に1カ月経過後に、同一労働者と有期労働契約を結ぼうとするだろうよ。有期労働契約者労働組合が組織されれば、このやり方が不当だといって、団交要求するに違いないさ。
 同一企業における有期労働契約労働者の総労働年数を、退職金規程の勤続年数としてカウントするようにすれば、紛争の予防にもなって上出来じゃないのかな。紛争解決金方式も、個別紛争解決の経験から言えば、有益だろう。有期労働契約者が労働組合員になる可能性は、残念ながら低いのではなかろうか。こんなことも、検討して欲しいと思うよ。