錚吾労働法

四三回 労働時間ーその10労働時間法⑨
 災害などによる臨時の必要がある場合の時間外労働・休日労働については、必要な手続きをふんで、使用者は労働者に業務命令を発することが出来る(労基法33条)。労基法33条をよく読んで下さい。その意味するところは、これから述べますが、今回の大地震・大津波のような未曾有の自然災害までは視野に収めているとは言えません。今回のようなときに、労働法的にどうすべきは別途の検討が必要だと思います。先ずは、労基法の意味について述べましょう。
 第1に、災害その他避けることのできない事由についてですが、それは、客観的に避けることができない場合を言い、災害はその場合に当たる例示で、それ以外の場合をその他と言っているのですよ。
 第2に、災害その他は、発生してしまったもの、現に発生しているもの、発生が客観的に予見できるものを言います。その他と書かれているからと言って、会社の業務の繁忙とか経営上通常予測され得るようなものは、臨時の必要には当たりません。
 第3に、災害その他は、自然なものであるかどうか、人為的なものであるかどうか、企業外原因のものであるかどうか、企業内原因のものであるかどうかを問うものじゃありません。
 第4に、労基法36条の残業によって対処出来るような業務は、災害その他による臨時の必要のある業務とは言えませんよ。この意味は、突発的電圧低下・停電、ボイラーの破裂、機械設備の故障・破壊、急病・負傷など保安上の危機、企業存続の危機、人命の救助などに対処する必要のある残業・休日労働だということです。公の利益のために通常でなく働くという意味も、あります。
 第5に、残業・休日労働を命じられる労働者には、正規労働者という限定はないんだよ。だから、派遣労働者やパート労働者などであっても、イザというときには、業務命令されることができるんだよ。
 第6に、臨時の必要がなければならないね。特にその他の臨時の必要というのは、天災などの災害とは違うから、分かりにくいかな。例えば、昔の話で恐縮なんだけど、国鉄では、ストライキやその他組合員の集団的な示威行為がよくあったんだよ。駅の業務ができないときに、駅長が助役に残業を命ずることがあったんだ。乗客の安全や便宜が脅かされていたんだから、命令は適法だったと思うよ。
 第7に、非番の労働者や帰宅した労働者を事業場に呼び戻すことも、労基法33条が想定していることなんだ。現場に現にいる労働者のみが、労基法33条の想定する労働者ではないということだよ。有給休暇中の労働者にだって、職場に戻って難事に対処せよということも出来る。居所が判らないと出来ないけど。海外で休暇という人、結構いるんじゃないかな。
 第8に、公務のために臨時の必要がある場合に残業・休日労働を命じられる国家公務員、地方公務員と書いてあるだろ。よく読んでね。ここで注意してほしいのは、ここに言う公務員は、いわゆる非現業の公務員のことです。何故かだって?現業公務員ならば、その業務は民間労働者と変わらないから、労基法33条1項で想定されているのさ。だから、労基法33条3項の公務員は、非現業の公務員なのさ。
災害等が公益に関わるときに、この連中がチャンと仕事してくれなきゃ困っちゃうだろ。
 その他いろいろあるけれど、これくらいでこの回は終わっとこ。